桃太郎
第十話「with」―4―
「……駄目だ………。奴を、二人に会わせるわけにはいかない………!」
二人の父親は、腹を押さえてうめきながらも、しっかりとした足取りで、研究所の長い廊下を歩いていた。
たくさんのモニターや機材が並ぶ一室に、泉と空、そして涼がいました。
その部屋に、父親の姿はありません。
「……お前、私たちをなめているのかっ!」
「いや、別に。君達の父親に会わせる前に、一つ面白い話をしてあげようと思ってね」
「――その必要は無い!」
泉と空が、その声のした方向を振り向くと、
「父さん!」「親父!」
そこには泉の父親と空の父親がいました。その表情は険しく、こちらを振り向きもしない涼の背を、遠慮なく睨んでいます。
「その話を、こいつらに聞かせるわけにはいかない」
泉の父親は、静かにそう言った。
「おや……よくここが分かりましたね。まあ、それはそれで――」
「黙れ!」
空の父親に怒鳴られ、涼は口をつぐんだ。その直後、涼は部屋で一番大きなモニターのある壁に走った。そして、モニターの下の機材に手を伸ばす。
「――くそっ!」
泉の父親はそう悪態を尽きながら、涼へと突進する。空の父は、泉と空をかばうように、二人を腕の中に抱いた。
「え、親父、何これ」
「いいから動くなよ。泉もだ」
「分かったけど……空近すぎ」
「泉が近すぎるんだよ」
「少しの間我慢しててくれ。絶対にここから顔を出すな」
泉と空がその指示に従った頃、泉の父親は涼へと拳を向けた。その拳が自分に当たるよりも早く、涼はパネルの操作を終えた。
刹那、部屋中が眩い光に包まれた。
「……親、父………?」
光が消え去ったその部屋には、
「父、さん……?」
二人の父親の姿はありませんでした。
「少々五月蝿かったのでね、大人しくしてもらいました。ああ、一応言っておくと、まだ死んではいませんのでご安心を」
先ほどまで何も映していなかったモニターには、今は六人の人影が映し出されている。六人はそれぞれカプセルのようなものに入っており、その内の二人は、泉と空の父親だった。
「お前ーっ!」
空が飛び掛ろうとしたが、その身体は動かなかった。
「君達に動かれると困りますから」
涼は笑顔でそう言った。
泉は己の身体も動かないことを悟ると、忌々しそうに言い放った。
「――病原体{ウイルス}か」
涼は、満足げに頷いた。
「どうやら君の父親は、流行病の話を君にしていたようだね、泉」
「気安く呼ぶなっ!」
「悪かったね。で、あれは君に何処まで話したんだい?」
泉は、涼をこれ以上ないほど怒りに満ちた目で睨みつけ、言った。
「母さんが死んだのは、ある研究所で働いていた時に、そこで発生した新種の病原体の所為だと」
「泉……、もしかして、俺の母さんもそうなのか?」
首肯した泉に、空は更に尋ねる。
「何だったんだ、その病原体って」
「そこまでは、私も教えてもらえなかった」
「――では、私が教えてあげよう」
涼は語り始めた。
二人の存在を、否定するために。