桃太郎

第十一話「潜入 鬼ヶ島」―1―


 それは、ドームのような島だった。
 島全体が曲線を描く透明な天井に覆われ、鳥すらも、その島に出入りすることが出来なかった。
 その島の唯一の出入り口は、高さ五メートル程の巨大な門である。
「――ん?港に誰かいる……!」
島のあちこちには、監視カメラが設置されている。その内の一つに、一隻の船が映っていた。
 それを見つめる目が、四つあった。
「何?……もしかしたら“桃太郎”かもしれないな。行くぞ、空!」
「ああ、姉者!」


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「しっかしあの港のオッサン、良い人で助かったな」
 小さな船に、涼子たちが乗っていた。手漕ぎの船のため、四人は休むことなく櫂を動かしている。
「そうね。直行便は出せないけど、その代わりにって、この船を貸してくれるなんてねー」
「きっとアンタの顔が怖かったのよ、芝田」
「何よそれー!それだったら、あんたの顔の方が充分怖いじゃない、涼子!」
「まあまあ、ちょっと落ち着いて下さい。ほら、やっと見えてきましたよ、鬼ヶ島」
 ドームのような妙な形の島が、目の前に見えてきた。
「本当にあれなのか?」
「あのおじさんが間違えていなければねー」
「こら芝田、手、休めない。さっさと漕ぎなさい!」
「うるさいわね、やってるでしょー!」
 色々と言い争っている内に、船は港に到着した。

「大きい門ね」
「ざっと五メートル位はありますね」
 涼子たちは、巨大な門の前にいた。
「……鍵がかかってるな。これは流石に涼子でも壊せないだろうな。――さて、どうするか」
「私でも、か………って、何よそれ!」
「――あ」
「どうした、坂田」
「あれ、見てください」
 坂田は、門と天井の間にある、小さな隙間を指した。
「芝田さんなら、あそこから島の内部には入れるかもしれません。内側からなら、この鍵開けられそうですし」
「そっか。じゃあ芝田――」
「じょ、冗談じゃないわよ!あんなに狭くっちゃ、羽がつっかえちゃう!」
芝田の言った通り、隙間は、普通の人がやっと通れる程の広さしかなかった。
「それでしたら――」
「そうね。やっぱり――」
「何かあいつに頼むのも癪だけど――」
 三人の視線は、竹田に集中した。
「な、何だよ」
「竹田、アンタこの門よじ登って、内側から鍵開けてきなさい!」
「そうよ。私なんかが行かなくたって、猿にはこんなの朝飯前でしょー?」
「馬鹿言うな!こんなの登れるわけがないだろう!落ちたら死ぬ!」
 しかし一番まともであろう竹田の意見は、結局受け入れられなかった。
「大丈夫。私が保証するから。ほら行けバカ猿」
「何をだああああああ!」
「スリー、ツー、ワン、イグニッション!」
 涼子が竹田を思いっきり蹴り上げると、竹田はロケットのように、垂直に上へと上がっていった。
「大丈夫ですよ竹田君ーっ!猿のお尻はそれ以上赤くなりませんからーっ!」
「お前はいつも一言余計なんだよーっ!」
 そんなことを言っている間にも、竹田はグングン上へと上がっていく。グングングングングングングングン――
「イテッ!」
 どすん。
 天井に見事にぶつかった竹田は、そのまま隙間から門の内側へと落ちて、鈍い音を立てた。
「あらら……落ちたわね、これは」
「あいつなら大丈夫じゃないの?」
 がちゃ。
 芝田の言った通り、竹田は特に変わったこともない様子で、門の鍵を開けて出てきた。だが――
「お前ら他人事だと思ってのんきにしやがって良いからそこに座れオレの武勇伝を語ってやろうじゃねえか居眠りせずにちゃんと――」
 涼子たちはしばらく、竹田の説教を受ける羽目になった。