秋――。
人々がこぞって秋の味覚を堪能する季節。
彼らも決して、例外ではなかった。
「……ねえ、泉。桃ヶ島ってこんなに遠かったの……?」
「何だ涼子。私を信用出来ないとでも言うのか。ちゃんと鬼ヶ島にあった地図の通りに進んでるぞ」
「でも、鬼ヶ島を出発したのは夏の終わりぐらいでしょ。……今はもう秋なんだけど」
涼子たちは、桃ヶ島を目指して船を進めていた。
途中、補給でいくつか島には立ち寄ったが、最後に補給をした島を出てからもう二週間近く経つ。そのため、燃料も食料も、もう限界であった。
「姉者、もしかして……いや、もしかしなくても迷ったんじゃないのか」
「うっ、うるさい!文句があるならお前ら自分で操縦しろ!」
この船の操舵者は泉である。因みに料理長は竹田、見張りは空と坂田。
そして涼子と芝田は……
「涼子、夕飯の材料が足りないから、ちょっと二、三匹釣ってきてくれ」
「芝田ーっ、前方に山が見えるって、姉者に伝えてきてくれー!」
つかいっぱ。……もとい、雑用係であった。
それにしても、船内には必要な設備が充分すぎるほどにあることに、涼子達は驚いた。
エンジンは普通のモーターであるが、内部の設備は潜水艦並みである。厨房からシャワー室まで、もう何でもありだった。厨房にいたっては、竹田が絶賛するほどの道具が並んでいる。
その厨房では、エプロンをつけた竹田が忙しく動き回っている。
「それにしても、あんた本当に料理上手ねー」
「お前らがやらなさ過ぎるんだ。おい芝田、やること無いなら少しは手伝え」
「あー、私何か美味しいものが食べたいなー」
「こら」
「竹田、調子はどうだ」
そんなひねりのない台詞を言いながら、やってきたのは空である。どうやら休憩時間らしい。
「コンロの調子なら良いんだけどな」
「そうか。……で、今日の晩飯は何だ」
「お前ら見事に夕飯の事しか考えてないんだな……」
「美味いものなら何でも良いぞ」
「フッフッフ。――甘いわねアンタ達!」
バンッ。
勢いよく開いた扉をくぐり、涼子が入ってきた。
「涼子、魚は釣れたのか?」
「飽きた」
「はあ?」
「だって最近魚ばっかりじゃない」
「……とか言って、一番食ってるのはお前だろ」
「うっ!」
「良いんじゃないか?たまには魚以外でも。私もそろそろ別のものが食べたい」
「そうですね」
「泉も坂田も、気配を消して行動するのは止めてくれ……。心臓に悪い」
「竹田君が鈍感なだけじゃないですか」
意気消沈した竹田をよそに、一同は話を進める。
「そう言えば、山のある島が近いんだってな。空から聞いた。今そっちに船を進めているから――」
「今は秋ですからね。色々採れると思いますよ」
「ねえ泉。操縦大丈夫なの?あんたが今ここにいるってことは……」
「問題無い。自動操縦機能をさっき見つけてな、それに切り替えてきた」
「今まで気付かなかったのが姉者らしいと言うか………」
「……何か言ったか、空」
「いや別に」
そんな会話をしていると、突然船が大きく揺れた。
「岩礁にでも乗り上げたんですか?」
泉が厨房の窓から外を見ると、
「どうやら着いたみたいだな」
久しぶりに、視界に陸が入った。