「…………」
「まぁまぁ、嬢ちゃん、そんなにムスッとするなよ」
涼子と盗賊達は洞窟の中にいました。涼子は特に拘束されているわけでもなく、適当な場所に座っていました。
洞窟は複雑に枝分かれしており、涼子達がいる「奥の間」と呼ばれる場所に辿り着くには、慣れた人でも三十分はかかります。盗賊たちは散々迷った末に、ここに到着しました。
「アンタ達、こんなところで一体何してるの?」
「ん?……ああ、この洞窟のこと、嬢ちゃんは知らないのか」
アフロ頭は立ち上がると、洞窟の壁に手をつけました。
「この壁はな、ただの壁じゃないんだぜ」
ガラン、という音がして、アフロ頭が力をこめた箇所の壁が、少しだけ崩れました。そしてアフロ頭は、地面に落ちた欠片を一つ手に取ると、涼子の手の上にそっと置きました。
「……これは?」
「双生石{ソウセイセキ}という鉱物だ。この世界と共に生まれたとされていてな、よく社に祭られるんだとさ。俺も詳しいことは分からんが、高く売れるんだから、価値はあるんだろうな」
「へぇ………」
涼子の手の中の双生石は、暗紫色の光を放ち、儚く輝いていました。それはまるで、
「…桃太郎に似てる……」
虚ろな目をしてそう呟いた涼子は、ふいに桃太郎との会話を思い出しました。
――じゃあお前、“本当の自分”ってやつを知っているのか?
本当の自分というものになろうとして、迷うことを止めたのは本当に良い事だったのだろうか。涼子にはまだ、分からなかった。
「嬢ちゃん、桃太郎を知っているのか……?」
「え?」
アフロ頭の発言に、涼子は耳を疑った。
「そいつは、この世界を作った神の名前だぜ?」
「地図がなければ絶対に迷ってたな、これは」
複雑に入り組んだ洞窟。その中を、竹田達は順調に進んでいた。ほとんど光の届かない洞窟の中で、竹田達は、自分達が獣の能力を身に付けていることに感謝した。……ただ一人を除いては。
「ちょっと待ってー!私鳥目だから全然見えないのよーっ!」
芝田は壁に手をついたままなかなか動こうとせず、きょろきょろと辺りを見回している。どうやら本当に見えていないらしい。
「じゃあお前はそこで待ってろ。オレ達だけで行ってくるから」
竹田としては、それは気遣いのつもりであったのだろう。しかしそれを聞いた途端、芝田は力なく地面にへたり込んだ。
「どうしたんですか、芝田さん?」
坂田の問いにも答えず、芝田は顔を下に向けた。よく見ると、その細い肩が小さく震えている。
呆然としている一同の中で、空だけが動いた。芝田に歩み寄ると、その視線の高さを合わせる。そして、
「……一人で、待つの……?」
ようやく絞り出した芝田の声を、しっかりと聞き取った。
「………一人は、いや、よ……」
そう呟き続ける芝田の肩に手を置くと、
「俺も一緒に残る」
竹田達に向かってそう言った。
「だが……」
反論しようとする竹田を泉は手で制し、
「そうか」
短く言うと、空に背を向け歩き出した。坂田はそれを慌てて追う。
竹田はなおも何かを言いたそうだったが、
「姉者を頼んだ」
空にそう言われ、泉達を追った。
少し後、ごんっ、という何かが壁にぶつかる音を聞き、姉者はまたぶつかったのか、空は思った。