桃太郎

第二話「いきなり大ピンチ?」



 はぁ……。何なのよ、もう……。現実離れしすぎでしょ……この桃……。ワープだなんて、まるで物語の世界じゃない!え?物語だから当たり前だって?そういうアナタは誰よ?……何、読者?ならもっと早く言いなさいよ、自己紹介するから。

 私の名前は水無月涼子。さっきまでアナタみたいにお菓子食べながら漫画読んでCD聴いてたどこにでもいる中学生。……え?そんな事しないで勉強してたって?そっ、それじゃあまるで私が勉強サボってたみたいじゃない!
 ……まあ、良いわ。話を進めることにするから。
 そんな私のごく普通の生活は、思わぬ形で壊されてしまった。
 何故かって?あのももまんのせいよ!
 そいつがいきなり私の前に現れて、気が付くと、私は桃の中にいた。
 その後はルーレットがぐるぐるで村娘がワープで……。あれ、何か違うぞ……?もう、面倒だから詳しくは第一話を読みなさい!
 さて、これでさっきの私の心の声の意味が分かったと思うから、場面を戻すわよ。

「さあ、着いた」
 ももまんはそういって、大きく伸びをした。大きく伸びをしたところで、小さいことに変わりはないけど。全く、もっと安全に移動できないのかこれは!でも……。
「まだこの桃、川の上じゃない。村娘の家どころか、人の気配すらしないんだけど……」
現に桃はまだ、川をのんびりと流れていた。
「あのねぇ……アンタ、いきなり陸に桃があったらちょっとは不審に思わない?川から流れてきた方が、怪しまれずに済むでしょ?」
いや、このままでも、十分怪しいと思うぞ……。
「と、言う訳で、あんたにはこれから“もも子”って名乗ってもらうからね」
「はぁ!?」
「桃から生まれた“もも子ちゃん”なんて、素敵だと思わない?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 冗談じゃない!いきなり改名しろって言うの?それに何うっとりした表情で語ってんだこいつは!それに……。それに、この名前は……。
「だって、この名前は……。お父さんが私の為に付けてくれた、私だけの宝物なのよ。だから、それだけは……!」
 ももまんは、ふいに呟いた。
「良かったな、涼{リョウ}……」
それがどんな意味だったのか、私にはよく分からなかったけれど。
 でも、“涼”って私のお父さんの名前よ。何でももまんが知ってんのよ?
 それを問おうと私が口を開きかけた途端、
「アタシの役目はもう終わったから。じゃあ、あとは一人で頑張ってね」
「え……!?」
ももまんはそう言って、私の前から姿を消してしまった。
 ……っておい!それじゃあ私はどうなるのよ!

 ぐらっ、どかん!

 何!?今、凄い揺れたけど……。
 私がモニターを見ると、そこには一人の少女が映っていた。
 でも、アレはどう見てもただの少女ではなかった。
 だって、洗濯物つなげて作った紐を投げ縄にして桃に引っ掛けてんのよ!
 あぁ……何なのよ、もう……。岸に引き寄せられてるし……。

 私はもう、お終いよ……。