桃太郎
第九話「卵」―2―
次の日、オレは朝から卵を暖かく見守っていた。
涼子たちは近くの村に情報収集に行っていたから、一人と一個――で、良いんだろうかこの場合――で一日を過ごした。
その代わり、働かなかったから、という理由で、夕食に作らされたシチューはオレだけおあずけになった。……オレが作ったのに。
「働かざるもの食うべからず、って言葉ぐらい、知っていますよね、竹田君?」
くっそー、あの犬野郎!相変わらず生意気だ。
……そういえば、この卵、どうやってかえすんだ?
「……こうだったっけ…」
確かアイツは、いつもこうやって卵をかえしていたような気が……。
「割らないようにしないと……」
「竹田君、何やってるんですか?」
「坂田!」
あいつ、いつの間に俺の横に……。
「そんなに大きな声出さないで下さい。涼子さん達、もう寝てるんですから」
げっ!まさか、さっきので起きてないよな?あいつらの寝起きの悪さは天下一品だからな……。起こさないようにしないと。
「ところで竹田君、その卵、結局どうすることにしたんですか?」
「……育てるよ。久しぶりに弟のことを思い出させてくれた礼だ」
「――それは、良かったですね。でも――」
「何だ?」
「卵を抱いたまま寝るのはどうかと思います」
翌日、オレが目を覚ますと、懐に抱いて寝たはずの卵がなくなっていた。それどころか、いつの間に降り出したのか、雨で体がびしょびしょだ。……これだから野宿は嫌いだ。
ひとりごちていると、涼子が血相を変えてこちらに走ってきた。
「ねえ竹田、卵に……!」
そうだ、卵!
卵はオレから1、2メートルほど離れた位置に転がっていた。そして――
「卵に、ヒビが――!」
ついに、生まれるのか?
ぱきっ。
頭が出てきた。
ゴロゴロピカッ!
「雷、みたいね……」
「……………」
雷に照らされて出てきたそいつは、可愛らしいヒヨコなどではなかった。
一言で表すならば、そう、正に「醜い」としか言いようのない、かろうじて鳥としての特徴を保っているような、そんな生き物だった。
輪郭はヒヨコそっくりだが、羽は無い。体の色は青紫。背中からは、何か黄色いものが、にょろん、と出ている。……もしかして、これが羽だろうか。顔は、とにかく醜い。いやらしい目に先の曲がったくちばし。頭からは黒い毛がちょろんと3本生えている。
「何なんだコイツはーっ!」
「まあまあ竹田、落ち着きなって。これあげるから」
そう言って涼子が差し出したのは、缶詰に入ったカンパンだった。
「それ食べたら、とっとと出発するわよー」
「分かったから、そっとしておいてくれ……」
そういえば、日に日に飯が貧相になっているのは気のせいだろうか……。
バキバキ、バリッ!
……何だ?
「あっ」
この鳥、くちばしで缶を開けやがった。
「それはオレのだー!」
ああ、また飯はお預けか……。